日本音楽集団
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 2005.11.18. (金) 第181回定期奏会 合唱と邦楽器たちとの出会い
◆ モニターレポート ◆

一、梁塵今様〜児童合唱と邦楽合奏のための(委嘱・初演) 川崎絵都夫作曲

1.春の初めの 2.鈴はさや振る 3.月かげゆかしくは 4.山伏の腰につけたる 5.遊びをせんとや生まれけむ

〔合唱〕NHK東京児童合唱団(ザ・ユース・クラス)(客演)
〔笛〕竹井誠 〔尺八〕I藤崎重康 II阪口夕山 III原郷隆
〔三味線〕工藤哲子 〔琵琶〕細川華鶴子
〔二十絃箏〕I三宅礼子・佐藤里美 II高橋はるな・久本桂子
〔十七絃〕渡辺正子・彦坂恵美
〔打楽器〕尾崎太一・盧慶順・島村聖香
〔指揮〕田村拓男

二、秋の一日(1985年) 長沢勝俊作曲

〔ナレーション〕村上茉優、大久保亮紀、石川菜保子、岡本廉、山岸奏実、清水えり、梶井圭、榊原えり子、井上雅基(以上、NHK東京児童合唱団)

〔笛〕西川浩平 〔尺八〕米澤浩 〔三味線〕杵家七三 〔琵琶〕首藤久美子
〔二十絃箏〕早川智子 〔十七絃〕久東寿子 〔打楽器〕望月太喜之丞

三、ひかりのうたげ〜童声合唱と邦楽器のための(委嘱・初演) 信長貴富作曲

〔合唱〕NHK東京児童合唱団(ザ・ジュニア・クラス)(客演)
〔笛〕西川浩平 〔尺八〕I藤崎重康 II渡辺淳
〔三味線〕I山崎千鶴子 II簑田弘大 〔琵琶〕首藤久美子
〔箏〕I熊沢栄利子 II田村法子 III衣袋聖志 〔十七絃〕久本桂子
〔打楽器〕盧慶順・島村聖香
〔指揮〕田村拓男 〔副指揮〕金田典子(NHK東京児童合唱団)

四、「四季」ダンス・コンセルタントI(1973年) 三木稔作曲

〈踊る春〉〈水巡る(みずめぐる)〉〈秋、そして〉〈風の花〉〈エピローグ〉

〔笛〕竹井誠 〔尺八〕I藤崎重康・阪口夕山 II米澤浩・元永拓
〔三味線〕穂積大志 〔琵琶〕細川華鶴子
〔箏〕I早川智子・渡辺正子 II田村法子・彦坂恵美
〔十七絃〕久東寿子・佐藤里美
〔打楽器〕尾崎太一・望月太喜之丞
〔指揮〕田村拓男

五、舞歌II〜児童合唱と邦楽アンサンブルのために(委嘱・初演) 新実徳英作曲

〔合唱〕NHK東京児童合唱団(ザ・ユース・クラス)(客演)
〔笛〕I西川浩平 II竹井誠 III原郷隆
〔尺八〕I米澤浩 II阪口夕山 III渡辺淳
〔二十絃箏〕I-1熊沢栄利子 I-2三宅礼子 II-1田村法子 II-2衣袋聖志
〔十七絃〕I久本桂子 II渡辺正子
〔打楽器〕望月太喜之丞・盧慶順・島村聖香
〔指揮〕田村拓男


◎ロビーコンサート(第一生命ホール4階ロビーにて、6時35分より)
「五声のコンチェルティーノ」(2002年)/福嶋頼秀作曲
〔尺八〕渡辺淳 〔三味線〕簑田弘大 〔琵琶〕細川華鶴子 
〔二十絃箏〕衣袋聖志 〔打楽器〕島村聖香

共演:NHK東京児童合唱団

第一生命ホール(晴海トリトンスクエア) 

主催:特定非営利活動法人 日本音楽集団
   NPOトリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール

助成:平成17年度文化庁芸術創造活動重点支援事業
    (財)アサヒビール芸術文化財団
     (財)三菱信託芸術文化財団



出会える喜び    栗山文昭(NHK東京児童合唱団音楽監督)
 この音にあふれ過ぎた日本の中から、私たちに一番大切な音を探す旅。私はそれが自身の音楽活動だと考えています。多分、この旅には終点はないでしょう。しかし、なにかとの出会で、そう、それそれ、その音が欲しかったんだよ、と、ほほえみを交せる音、その音たちに今日は出会えるはずです。
 日本音楽集団の皆様の今回の企画により、邦楽器と子供たちの声との出会の時を作ってくださいました。感謝の気持ちでいっぱいです。指揮者の田村先生のお計らいで、子供たちの練習の場に、何人かの集団の方をお呼びいただき、合せが始まった途端、彼らが体の中から変っていくのがわかるのです。その瞬間、彼らは新しい自分とも出会っているのです。取り立てのレモンからほとばしり出たような音、と私は感じました。
 それぞれの作曲家の切り口が、また今回の演奏会の楽しみでもあります。そして、それらは、私たち日本人の血の中に実はあったもの。自分自身との出会の時ともなるでしょう。

嬉しい!合唱との作品3曲誕生       田村拓男(日本音楽集団代表)
 今日(10月19日)、NHKのスタジオで初めて児童合唱団と練習をしました。琵琶や三味線、大きな箏(二十絃箏や十七絃)、長さの違う笛や尺八がたくさんあって合唱団の皆さんは目を丸くしていました。「ほ、ほ、ほーたるこい…」(信長作品)、「Hum? Hum――ワッ!」(新実作品)。天からの声が響き、新実さんの楽譜には遂に顔文字まで登場しました。新しい出会いと発見!…。素晴らしい合唱との作品が3曲も誕生しました。この出会いはNHK東京児童合唱団の定期演奏会(2006年1月14日、15日、東京オペラ・シティ、タケミツ・メモリアル)と、今年新装オープンした島根県芸術文化センターグラントワ(益田市)での公演(2006年3月21日)まで続きます。
 素敵な出会いを作ってくれた栗山さんは、今回は芸大の定期演奏会と日程が重なり出演できないのが大変残念ですが、益田市(栗山さんと同故郷)の公演では同じステージに立ちます。



梁塵今様(りょうじんいまよう)〜児童合唱と邦楽合奏のための
「梁塵今様(りょうじんいまよう)」は、12世紀に自身も歌の名手であったとされる後白河上皇によって編纂された「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」から5編の歌詞を選び、自由な発想で作った合唱曲です。
 「梁塵秘抄」の「秘抄」とは、大切な秘伝を書いた本、という意味です。また「梁塵」の「梁」は建物の梁(はり)のこと。「塵」は、ほこりなどのちりのことです。中国の古代に虞公と韓娥という非常に美しい声の持ち主が居て、二人が歌うと、梁の上にたまった細かな塵が舞い立ち三日間も静まらないほどであった、という故事による言葉です。
 また、梁塵秘抄も含め11世紀後半から200年ほど広く愛唱されていた歌謡(うた)を「今様(いまよう)」と呼びます。あくまでも民衆的な歌なのですが、生き生きとした「はやしことば」や「ものはづくし」、軽快で自由な八五調や不定型の句体はとても魅力的です。皆様に楽しんで頂けると幸いです。(川崎絵都夫)

川崎絵都夫(かわさきえつお)プロフィール
作曲家。1959年東京生まれ。魚座。A型。東京藝術大学作曲科卒業後、オーケストレーターして活躍。並行して邦楽器、合唱、室内楽などの委嘱作品発表を続けている。また文学座・新国立劇場を始めとした舞台音楽も多数。邦楽合奏作品は親しみ易い作風で広く演奏されている。日本作曲家協議会会員。東京ミュージック&メディアアーツ、尚美特別講師。2000年〜2004年・早稲田大学文学部講師。


ひかりのうたげ〜童声合唱と邦楽器のための
 『ひかりのうたげ』の「ひかり」は蛍を指している。闇に幾粒かの光が産み落とされるところからこの曲は始まる。
 日本には古くから、蛍に死者の霊が宿っているという考え方がある。『日本の遊び歌』(川崎洋著/新潮社)の中に、第二次世界大戦中の鹿児島県知覧特攻基地での逸話が紹介されている。二十歳前後の特攻隊員が、自分は蛍になって還ってくるから迎えてください、と言って海に散っていったそうだ。今では「ほーたる来い」と蛍を迎え入れる声は日常から消えてしまったが、蛍になって還ってきた特攻隊員たちのことも、いずれ人々の記憶から消えてしまうのだろうか。蛍の棲む美しい水辺も、戦争の哀しい記憶も消え、やがて歌も滅び行くのではないか……そのような虞(おそれ)を今、抱かずにいられない。
 戦後60年。戦争で亡くなった沢山の人々の魂も、今を生きている私たちも、再び歌のもとに集えないだろうか、そんな願いから『ひかりのうたげ』を作曲した。素材として広島と長崎のわらべうたを引用している。童声でそれらが歌われるとき、死者も生者も渾然一体となった祭りの陶酔に似た幻想に誘われるだろう。(信長貴富)

信長貴富(のぶながたかとみ)プロフィール
1971年生まれ。1994年上智大学文学部教育学科卒業。
主な受賞歴:1994・95・99年朝日作曲賞、1998年奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位、2000年現音作曲新人賞入選、2001年日本音楽コンクール作曲部門(室内楽曲)第2位など。
近作に「モニュメント」(女声)、「いまぼくに」(混声+Pf)、「カウボーイ・ポップ」(混声・男声)、「起点」(男声+Pf+打楽器)、「Wind Vane」(Fl+Vc+Pf)、「狐憑き」(三味線+Vc)などがある。

舞歌 II
〈舞歌 I〉もそうですが、この曲でも子どもたちによる架空の舞踊(児童合唱によくあるような振りではなく)を想定しています。いつの時代までだったのでしょうか、歌(音楽)と踊りは一つのものだったはずで、僕はそうした歌=踊りの「復権」を夢想しているのです。
 さて、この曲では日本の楽器を背景に日本の子どもたちのエネルギーが噴出します。テキストは詩ではなく、わらべ唄や各地方に伝えられる「こーじんさま、さんたいさま、じくがみさま…」などの土地の神々の名。そして不可思議なヴォーカリーズetc。
 時空を超えて翔び交う子どもたちの声、邦楽器の調べを「今」という時に結ぶ試みでもあります。
 「過去」の素材、それらが「今」に結ぶ、そしてそれがどのような「未来」につながっていくのか、とても楽しみなことです。(新実徳英)

新実徳英(にいみ とくひで)プロフィール
1947年名古屋市生まれ。東京大学工学部卒、東京藝術大学大学院研究科修了。77年第8回ジュネーヴ国際バレエ音楽作曲コンクールグランプリ、2000年第18回中島健蔵音楽賞、03年別宮賞、04年CD「風神・雷神」が芸術祭大賞など受賞。作品は管弦楽、ピアノ、合唱、室内楽等多数。国内でNHK交響楽団など、海外ではスイス・ロマンド、ベルリン交響楽団他の多くのオーケストラで管弦楽作品が演奏され、高い評価を得ている。現在東京音楽大学客員教授、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師、日本作曲家協議会理事。

NHK東京児童合唱団プロフィール
 1952年3月「少年少女に豊かな心を」という願いから、NHKの教育番組と子ども番組の充実を目的として設立された。以来、番組出演はもとより、海外の合唱団との交流、国内主要オーケストラとの共演など、活動の幅を広げている。また、毎年意欲的なプログラムによる定期演奏会を開催し、邦人作曲家への合唱曲の委嘱にも力を注ぎ、多くの作品を内外に紹介している。1977年から行っている海外演奏旅行も14回を数える。これまでに、BBC世界アマチュア合唱コンクール第2位、コダーイ・ゾルタン生誕100年記念国際合唱コンクール青少年部門第1位・総合部門クランプリ、EBU主催世界合唱コンクール児童合唱分門第1位など、多数のコンクールで入賞した。国内においても、2000年に花とライオン児童合唱音楽賞、2003年に童謡文化賞などを受賞し、児童文化の向上に貢献している。音楽監督:栗山文昭 団員:小学2年生から高校2年生まで274名。

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